・基本的にはよく出来ているが、突っ込みどころも多い。
そもそもこれはミステリーなのだろうか?
倒叙ミステリーの傑作と言われているが、主人公である少年の犯行の詳細は全て一人称視点で記述されており、読者が推理する要素は何も無い。
これといって“探偵役”との緊迫した駆け引きがあるわけでもなく。
これをミステリーと言うのには疑問を覚えざるを得ない。
青春物の要素を持ったサスペンスとして分類するのが妥当だろう。
肝心の内容であるが、基本的にはよく出来ている。
ラストの余韻溢れる描写も秀逸だとは思う。
しかし、今ひとつ主人公に感情移入が出来ない。
その理由は、第一に主人公の頭が良すぎる、行動力がありすぎること。
偽装工作に使ったトリックや、その下準備の際の行動は、普通の高校生ならまず無理。大学生でも厳しいだろう。
主人公が「こんな高校生いないだろう!」と思ってしまうほどに、余りに完璧超人すぎて、現実味が薄くなってしまっている。
第二に、偽装工作の方法にやや無理があること。
エンターテインメント小説としてのインパクトを重視したのか、殺人を隠蔽するための方法がやや非現実的であること。普通なら、殺人自体の隠蔽を選択だろうし、あれほどまでに凝った偽装工作を施すには説得力が欠けている。
青春小説としての要素も加えたかったのだろうが、無駄に長い性描写も必要とは思えなかった。
同じ作者の作品なら、「黒い家」の方が遥かに出来は良い。
・説得力に欠ける・・・まぁでもそんなもんか。
なんだろう、僕はこれを読んでいて、もの凄く虚しくなる訳だが、、、何故か?と理由を考え
た時、きっとこの青年像に共感できないからだろう。
思うにこの軽薄さっていうのは、ここ20年の時代の流れに則した最も今風の青年なんだろう。
既成の価値観をすべてぶち壊して、ただ前進するだけの時代。それゆえ過多、暴走気味な
価値観が蔓延した訳だが、まさにそれを如実に表現してるのかなと?あとがきでも最近の若者
に取材もしたという事だったし、、、
大体、これを一つの推理、ミステリ小説と読む場合、あまりにポカが多いし、むしろその前に
なんでこの段階で、そんな方向へ考えが巡るのかが理解できなさすぎるんだよなぁ。
だから、半ばね開いた口がふさがらず、ふ〜んって感じの前半、中盤だが、さすがに貴志祐介
の筆力はすごくて後半では目頭に熱いものがこみ上げることもある。ラストの描き方は本当に
巧くて、そこは素直に凄いといえる。
でもきっと、考えてみれば、共感できるのは今だけの気もした。なんというか時代が変われば
描き方が変わるのも当然だが、時代の流れが逼迫してきた時、つまり20年後ぐらいにこれを
再読すれば、いい意味でここまで陳腐で滑稽なものはないと感じるだろう。そうあるべきだが
・・・。
文庫版の方には佐野洋さんが解説書いてるが、なんとも皮肉に松本清張を例に出して、推理
小説の倒叙形式について解説してるが、結局、清張の小説に出てくる殺人犯ってのは、本作
の主人公、櫛森秀一とは真反対のタイプなんだよね。それは本作の「こころ」の章に出てくる
夏目漱石のこころを読んだ時の秀一の浅い解釈が全てを物語ってました。
それが仮に、新しい倒叙ものだといいはっても、あまりに中途半端だし、総じて説得力に欠け
るんですよね。
でも他の方のレビューを読んでて、あぁそうかと思ったのは、やっぱりコレは今の同年代の
若者が読めば共感できる部分も多いのかな?ということでした。
・愛する家族のために、決死の完全犯罪に挑む少年。そして、完璧な結末。
まずしいながらも、幸せな家族に突如あらわれる異分子。母を妹を守るために完全犯罪に挑み殺人を犯すが、少しずつほころび始める。そして、証拠隠滅のための不完全な第2の殺人をおかし、追いつめられた少年のとる最後の手段は・・・。主人公の家族を思う必死さや殺人を犯すまでにいたる心情、一度罪を犯してしまったあと追いつめられていく過程が緻密に描かれていて、衝撃のラストに涙してしまいます.ホラー以外でもすばらしい才能を発揮する貴志祐介さんの傑作の一つだと思います.
・凄い作品ではあるが認めたくない部分もある
テーマやタイトルを考慮に入れた作品だけあって
期待が大きかったが残念な部分が多かった。
終盤へのたたみかけは目を見張るものがあったが、
序盤に引き込まれる要素が無く途中で読むのを断念しかけました。
先ず主人公の秀一が頭が良すぎて感情移入出来ない。
殺人に到る動機があまりにも不純ではないかと思ってしまった。
細かい心理描写や設定には凄みを感じ取れたが、
リアリティーが欠けてる部分が目立ってしまったのは残念です。
・17歳の悲しみ
純粋なままに母と妹を愛し、それゆえに手を汚してしまう秀一。
彼を追い詰める刑事が憎らしく思えるほどに、秀一側に立って感情移入していました。
完全犯罪が可能と思えるような理系的裏づけ、恋や酒に興味を抱き、自分だけの空間で過ごす時間を大切にするという17歳の等身大の姿、どれをとっても大変よくできた作品です。
貴志祐介、今後も読んでみたいと思いました。