・期待した割には・・・
いろいろな伏線が序盤から張られていて後半の展開を楽しみにページをめくりました。
しかし、読者が最初から感じる「これが原因だろう」という予測を外すわけでもなく、最後にそこにたどり着く展開でした。
伏線は消化不良な形で終了していますし、途中までの展開が期待させるものなので、終盤の展開に残念な感じです。
・もう少し緊迫感が欲しかった
未知の感染症と闘うサイエンスサスペンスということなのですが
この手の作品は、専門用語だらけで、予備知識がない人が読むと、
何のことだか分からないことも多いのですが、本作品は、その辺りの説明が
かなり平易かつコンパクトにまとめられていて、非常に読みやすいです。
ただし、作品中でも説明されますが、疫学自体がかなり地味な作業を
こつこつと積み上げていくという性格のものなので、主人公も、
“あっと驚く”ような推理をするわけでもなく、盛り上がりに欠けます。
さらに、物語中盤からサスペンスものにはつきものの、事件の鍵を握っていそうな
謎の人物が登場するのですが、期待させる割にはイマイチ...
ということで、サイエンスを期待すると良いかもしれませんが
サスペンスを期待すると肩すかしというのが、正直な感想でした。
・リアルさがあって怖いです
一言、怖いです。今、新型インフルエンザやウィルスの流行が懸念されているだけにそういう事が実際にあったら…こういう事になってしまうのだろうというリアルさがあり読んでいて怖かったです。文中にちょっと難しい医学用語があったりしましたが、先が気になってサラリと読めるたかも!?ケイトの母としての愛情の深さをグッと来るものがあります。そして、病原体の元栓が、そこいらに居るものだけに恐怖感があるお話に仕上がっていると思います。サラリとした文体だったので分厚いけれどもサクサクです。
・映像化を前提としたシナリオのようでした
ラスト50ページに、ひどく裏切られたと感じた。それまでは1秒でも早く次のページに行きたいと興奮気味に読んでいたのですが、クライマックスが安易というか考え抜かれたものとは思えないものガッカリ。
この本がシナリオであったらば、俳優、ロケーション、演出がリアリティを加えて完成され得たと思えるのですが、残念ながら登場人物の書き込みが足りません。心象風景や過去の出来事で住ませているキャラがいると思えば、保健所の男性職員のように著者に近いキャラだとその思考や行動がやたら詳しく描かれていたりする。本当の小説家なら、疫学の専門家が日常/非常事態で暮らすため、サバイバルするため、どのようなことをしたりするのか、知りたかった。職業病というのはあるものだと思うので、手洗い方法はどうだとか、海の幸がおいしいと思われる町が舞台であるが、刺身は食べるのか等。
例えば、激務の中「弁当」を食べるといった表現は何度も出てくるのですが、具体的に何弁当で、登場人物はそれをどう思ってどういう食べ方をするのか、といった記述が何も無い。日常のディテールから浮かび上がる地方や人の特色、あるいは恐怖といったものが何も無い。いいストーリーと素材で読者の心をつかむのは早いのに、不足しているものが多いから、シナリオならば星5つでも、小説としてならば残念ながら星4つ以下にしかならないと思います。メインキャラが女性にも関わらず、忙しい中、自転車にまでに乗るのに、髪の毛をどう束ねたとか、メークはどうしたのか等の記述がありません。ウィルスを系統で語る前に、女性も身長やライフスタイルや年代/好みによる最低限のステレオタイプを作ってから描いて欲しいもの。
SF映画のDVDじゃありませんが、もっと書き込んでラストも改善できるならアナザー・ヴァージョンで再読したい。
・希望。
こんなに真っ黒なページの川端裕人を読むのは何作ぶりだろう。
もちろん文字数が少ないからといって中身が薄いというわけではないのだが。
しかしまあこの際、相変わらずネーミングセンスが悪いとか、
どの作品のヒロインも似たような性格だとか境遇だとかという設定には目を瞑ろう。
「疫学」という分野の専門用語をわかりやすく解説してくれる小説を書かせたら、
たぶんこのひとがいちばんだ。
ところがそのわかりやすさ故か、物語を複雑に絡ませたり
謎が謎を呼ぶような展開にするのは苦手のようだ。
読者はあまり振り回されることなく読了できてしまう。
面白いのに、そこが少し物足りなさを感じさせる。
国や政治家の薄汚い面ももっと書きこむことができたのに。
でも踏み込み過ぎないところが川端のいいところなのだろう。
そのおかげで『エピ』というテーマに絞りきれている。
最近の彼のブログで取り上げられたさまざまな話題や本が、この小説に集約されている。
彼の科学や自然に対する考え方がよく表れていると思う。
P.224の棋理のことばがこころに残っている。
「絶対なんてことは、ありえないんだ(中略)…きみは、まだまだ生きられる。
今はつらいかもしれないが、踏みとどまるんだ」
ひとは希望があるからこそ生きられる。
科学的な謎解きとともに何度も語られる「人間も生態系の一部」だということ、
そして「希望」がこの小説のテーマなのだと思う。