・おつうが健気すぎ
「天下無双」について語る武蔵。久しぶりに読んだのですが相変わらずおもしろいです。
武蔵や沢庵、又八などはもちろん、小川、所司代の板倉など、脇のキャラもみな魅力的で、登場人物一人一人が好きになれるのがこの作品の良さですね(これは井上氏の作品すべてに言えますが)
相変わらず絵も素晴らしい。「バガボンド」は私が一番読むのに時間がかかるマンガです。それはもちろん、絵を、細部までじっくり見てしまうから。
この巻で個人的に一番印象に残ったのはおつうです。
28巻以降、おつうの出番が多くなってきました。この巻でも植田の幽霊に自分の気持ちをぶつけるおつうですが、彼女の武蔵に対する気持ちには本当に感銘を受けます。いい女すぎるよ。
私は原作の結末を知らないので何とも言えませんが、幸せになって欲しいですね。
・植田の幽霊使いすぎ
武蔵編に関しては文句なし。
「天下無双とはただの言葉に過ぎない・・・」これを悟る武蔵の心理描写が、京都所司代長との会話を通して非常にうまく表現されている。
今までがむしゃらに追い求めていた「本当の強さ」の答えが出た、バガボンドの中では重要な一巻であろうと思う。
それに反しておつう編は?である。
今まで死んだ人間が想念や残像のような形で何度か出てきたことはあったが、それは登場人物の心の裡から生じた迷いであったり苦しみであったり、それらからの解放であったりと、物語に深みを与えるためのものに必要なものが多かった。
だがこの巻での植田の幽霊はどうだろう?おつうの魂を70人斬りの戦場や投獄中の武蔵の元に連れて行ったり、心の中を自由に読んだりと、もうやりたい放題。ストーリーの辻褄合わせにかなり悩んだ挙句仕方なかったのかもしれないが、非常に興ざめしてしまった。
ラストまであと何巻続くか分からないが、出来ればこういった設定は避けてもらいたいものである。
・タルい
最初の方の巻を読み返して思ったんですが巻を重ねるに従い作者がひたすら雰囲気のある絵をかくことで悦に入ってしまい、漫画としての面白さが欠落してきたと思います。何ページもそんな絵が続くとめくっているうちに『?』が頭に浮かぶことが多々あります。
・陽炎。武蔵のたどりついた答え
斬り合いのシーンのような張り詰めたような迫力はないけれど、
とても面白く読めました。
あの長い、吉岡一門との戦いの末にたどり着いた境地、
誰よりも天下無双に近いと思われる武蔵本人が、
天下無双は陽炎だったという、自分なりの答えを見つけだす。
最近「最後の漫画展」を見ただけに、ここからの流れだったのかと、
とても感慨深かったです。
おつうの想い、光悦の想い、沢庵の想い、
武蔵や小次郎を取り巻く人たちの優しさに、ほっとします。
強さについて、やさしさについて、
欲や執着や後悔や諦め、
自分も迷いながら書き続ける作者の真摯な姿に、とても好感を持ちます。
そして、また歩み始めた武蔵の選ぶ道、
小次郎とまた交わるその時を、早く見たいです。
・何事にも捕われない真ん中
天下無双。そう呼ばれたときの父の目に引け目を感じる姿が哀しい。
生きるか死ぬか。お互いそういう覚悟の上ぶつかり合う。
家族、残されたもののことを省みず闘いに身を投じたのは己の責任。
どんな結果になろうと、そのことについて愚痴ってはいけない。
覚悟が汚れてしまう。
それに比べて運命を受け入れてソコで生きていくと覚悟を決めたおつうは美しい!
おつうには幸せになってほしい・・・
天下無双という言葉がいかに無意味で悲しいものか。
その絶望を救ったのは、昔馴染みの友の言葉。
剣そのものは幻でもなくそこにある現実。
天下無双に捕われずどこまでも高みを目指す。
剣に生き、剣に死ぬ。
やっと上りきった試練の山の頂上で見えた隣の山は果てしなく高かった。
最後のページが暗闇なのが心配。は、早くおつうが照らさないと・・・!