・体験的異国論
教育、社会、日常を通してフィンランドと日本の違い或いは共通点を、
体験を元に紹介しています。
日本に足りないもの、必要なものが見えてくるのではないかと思います。
・「体験的フィンランドレポート」
メソッドとは銘打ってあるが、実質的には著者の「体験的フィンランドレポート」といった内容。
実際にフィンランドで過ごした体験の描写はとてもわかりやすく、それでいてフィンランド偏向の考え方ではなく日本と中立的に描かれている。そのため、体験的とは言えど客観性のある情報なのではないかと思われる。
日本とフィンランドは国民性こそ多少似ているが、社会システムが大きく異なっているようだ。少なくとも2、3年後の日本は、医療・教育などがフィンランドの社会システムに多少近づいては来るのだと思われる。
そこで興味深かったのは、フィンランドでは社会保障が充実しており女性の社会参加が当然であるがゆえに離婚率が高い、という事実。
現在の日本も離婚率は上がってきているが、これからの流れで行くとさらに増えてくることが予想されるため、保障を増やすだけではなくてそういった社会の受け皿を増やしていくことも考えねばならないのだと感じた。
国民性、社会システム、生活文化など、より詳しく知るには別の書籍を当たる必要があるが、概論としてはわかりやすい内容だと思う。
・単なる留学日記−「メソッド」は何処に?
タイトルに「メソッド」などと銘打っているから
我が国社会の閉塞状況を打破する処方箋がかの国に求められるのかと期待したものの、
「メソッド」など何処にも書いておらず、
単なる留学日記のレヴェルにとどまっている。
・思っていた以上に中立的
なんとなくフィンランドをユートピアとして持ち上げまくる論調なのではという偏見を持っていたが他の方も言うように全然偏った持ち上げ方などはしておらず、あまり良くなく思える特徴も多く書かれている。それも一つや二つではないので、なかなか中立的な誠実な見聞録といった具合でフィンランドの実態を正しく教えようとしてくれていると感じる。着眼点も多岐に渡っており感心する。学力世界一で注目され始めた事もあって、フィンランドの教育を扱った部分が大分多い。(意外に最後の文化の部分も教育以上に長い)個人的に素晴らしい、日本も見習って欲しいと感じた点を挙げておく。ちなみに本が中立的でも私自身まで中立的にレビューを書く気はない。
掃除の時間がない(専門の清掃員がいる)
選択授業が多く学年やクラスという枠に拘らない
制服がなく校則もなきに等しい
高校には本当に勉強したい人だけが行くという意識があるため進学率は低い
勉強が好きでない、早く手に職つけたい子供は職業専門学校へ行く
高校ではクラスの枠が殆どなく大学と同じ単位制であるため各自のペースで卒業する
午後1時2時にはもう授業は終っている
二ヵ月半の夏休みには宿題が一切ない
小学生の一年間の授業時間は日本より200時間も少ない
教師の質が高い(知識だけでなく人間性などが重視され、大半が修士号以上を持っている)
大学入学平均年齢は23歳
高校卒業から大学入学までの間は興味ある事を勉強したりバイトをしたり
それでいて学力が世界トップ
著者も指摘している事だがこういったフィンランドの教育を概観してまず分かるのは、これら全てが日本にはない、という事よりもまずもっと根本的な問題として、多くの日本人がこういった教育にはヒテイ的な価値観を持っているという事だろう。ゆとり教育とフィンランドの教育は同じではなく、私もゆとり教育に全面賛成なわけではないが、しかしよく指摘される通りその二つは多くの共通点も持つ。だから日本で散々ゆとり教育に向けられている罵トウの嵐は殆どフィンランドの教育にも当てはまる。だが著者も言うように、学力の低下原因が授業時間数の削減に直結しているというならフィンランドの授業の少なさと学力の両立は説明がつかない。むしろフィンランドに比べればたかが週休二日などまだまだ多すぎるくらいなのであって、毎日が半日授業になっても教育は成立するのみならずやりようによっては学力トップにすらなりうるのだ。
私はフィンランドの教育を知る前からより自由な教育、より柔軟な教育として授業量削減や宿題の縮減や制服の廃止もしくは選択化や校則の不必要性を訴えてきたが、賛同を得るのと罵トウされるのでは1:9くらいであった。中でも理解に苦しむ反対としては、そんな事を認めていては学校が崩壊し教育が成立しないというものだったがそれは単なる創造力の欠如だ。掃除が義務でなかろうが、校則は実質的になかろうが、制服がなかろうが教育は十分成立する。フィンランドのような分かりやすい実例がある事は、より自由な教育を求める人にとっては頼もしい事だろう。(誤解を避けるため補足しておくが私は存在する全ての学校がそうなるべきとは考えていない。生徒自身が受け入れている場合は厳しい校則も体罰も掃除も認めていい。ただそういう教育を受けたくない子供や親の行き先となる自由な学校がもっと増えるべきだと考えている)
ただPISAテストとかいうものの結果や学力の向上といったものに価値を見出しすぎて「学力がトップだから」マネをするという思考展開をしては、なんらかの弊ガイが出るだろうと私は思う。勿論、管理教育や詰め込み教育や膨大な授業料と宿題こそが学力を向上させるという考え方の人には、そうでなくても学力は向上する、という有力な批判として使えるが、学力が向上するから絶対善という考え方では学力のために反フィンランド的教育を唱える人と本質的にはそう変わらないと私は思う。これについてはそもそもの学力世界一という結果に対するフィンランド人の反応を引用すれば多少説得力が増すだろう。「え?何も特別な事はしてないのにねぇ」彼ら自身このような結果が出た事には驚いているし、別に学力トップを目的にしていたわけではない。ただ子供のため正しく思える教育を追求した結果としてオマケで学力がついてきたのだ。
・豊かな北欧の社会はどんな仕組みからできているのか
税金は高いけど人々が豊かに暮らしている。残業はないのに生産性は世界一。そんなイメージを持つ北欧社会の概要がわかりやすく書かれている。約500万人の人口なのに様々な技術を発明している。夏休みは4週間あって家族との時間を大切にする。教師が尊敬されていて平均的な学力が高く、大人になっても社会人教育を受けて転職する。
年をとってもやる気があれば人生の方向転換をしやすい社会は豊かな社会だと思う。日本的な労働環境や価値観が絶対的なものではないことを知り、世界の多様性に目を向けるきっかけとして本書を読むのは価値がある。