・一人ひとりの舞台裏
本物の箱根駅伝は、とてもドラマチックだ。
ごぼう抜きにされ、区間新を出し、たすきをつないだり、つながらなかったり。
そして、どんな選手も"思い"を持って走っていることを知っているから、
TVで映し出される一人ひとりが、ヒーローだ。
そう。こんなドラマチックな"本物"を、
小説が越えるなんて、、、、ムリムリ!
とか思っていたら、大間違いだった。
平面の映像では(いや、たとえ3Dでも)描けない、
選手が箱根に懸ける"思い"を、丁寧に語ってくれる。
そこにあるのは、一人ひとりの舞台裏。
小説だからこそ描ける、走っているときの心の中。
10人+αの思いを一つのたすきに紡いだ、本物越えのドラマです。
・走り始めたら止められない
連中が箱根に向けて走り始めたら、もう読むのを止められません。
展開が気になって加速して一気読みです。
出だしに青竹荘でうだうだやっていたのはこの変調のための布石だったわけで。
面白さはなんと言っても大きな目標を一から目指すスリルと、
身近な目標を順次達成していく快感の繰り返しにあります。
そしてまた幾度となく淡々とスタートの春が巡ってくる空虚さを感じさせるエピローグも良い。
長い一年間でした。
三浦しをんの若者の描写はくすぐったいのですが、
掲げたキーワード(「強さ」、「頂点」、「信頼」、「夢」、「緊張感」など)を
しっかり表現してくるあたりがやはりさすがだと思います。
ただのファンタジー小説ではありません。
大学受験を控えた高2あたりが読んだら良いかもしれません。
スケジュール的にも似たようなものだし。
・終盤なきっぱなし
青春小説はよく読んでいましたが、この作品が一番良かったです。
素人の男子学生が箱根駅伝を目指す物語。
このテーマについて、「ありがちかな」と思って読み始めました。
それこそ「ウォーターボーイズ」「ROOKIES」みたいなものかなって。
でもこの作品は違います。
できすぎていなくて、とてもリアルです。
素人の学生が成長していく姿などに感情移入してしまい、
通勤中に読むだけにとどまらず
夜通しで読んでしまいました。
本当に感情移入しすぎて、終盤は泣きっぱなしでした。
変にできすぎていなくて、敵がでてこない点も読みやすいポイントだと思います。
映画も見たいのですが。
まだやってるかなぁ。
・何度でも読み返したくなる作品です。
こんなにさわやかな涙をもたらしてくれる作品に出会ったのは初めてです。
もともと箱根駅伝の熱烈なファンである私にとって、箱根駅伝を題材に扱った本というのは「面白そう!読みたい!」という気持ちと「大丈夫かな?」という気持ちの両方を抱かせるものでしたが、読んでみて後者の不安は杞憂であったことに気づかされました。
もちろん寄せ集めの(しかも選手の大半が長距離未経験)チームがわずか1年であのような結末までもっていくことは到底出来ることではありません。作中でも言われているように箱根駅伝は本当に多くの陸上競技者の夢であり、ある種のゴールでもあるのです。それでもなお、読んでいるうちに10人の挑戦を心から応援し、彼らの想いにこちらまで熱くなってしまう。そして読み終えたときにはなんとも言えない心地よさとさわやかな涙をもたらしてくれる、そんな作品です。
個性的な登場人物10人の想いが非常に丁寧に描かれており、「誰が誰だっけ?」というような登場人物の多い作品にありがちな悩みなどとは無縁です。読めば読むほど10人それぞれに愛着がわき、何度読んでも本選のシーンでは胸が熱くなる。そしてこの作品において特筆すべきなは、その表現の美しさです。ぜひ実際手にとって読んでみてください。箱根駅伝に興味のない方にきっと興味を持って頂けるだけでなく、箱根駅伝が好きな方も次のお正月が今まで以上に待ち遠しくなること請け合いです。
私にとっては人生を通して大事にしたいと思える本の1冊です。
・競技経験
この作者は駅伝に限らず、競技経験ってあるのかな?最近の小説でも漫画でも、経験に裏打ちされた、競技者のつらさ、異常なまでのトレーニングを描いた作品ってほとんどないですね。レースや試合で都合のよい結末でお涙頂戴の作品ばかり。読者も作者の程度も低下してるって感じます。 黒木亮の冬の喝采って作品を読んだ人は、このレビューに書き込んだ人にはいないんでしょうね。