・敢えて、官能小説を書かなくとも・・
こういう小説は困ってしまう。勿論、いい年齢をしてセックスを否定するつもりはない。ただセックスを描くならこう、なんというか必然がほしい。読むことを納得させるだけの何かが描かれていてほしい。
本書は、その辺に転がっている、何にもなることのできない青春期のちっぽけな少年、少女、イタさという言葉が似合うような彼らを、生き生きと切なく描くことを得意とする作家、豊島ミホの、本書オビの言葉を借りれば「等身大のエロティック純愛小説」。
そこにはセックスを通すことで初めて実感できる、彼らのちっぽけで陳腐で切ない恋愛や想いが幾つかの短編として描かれる。生き生きというより、さらけだされるような肉と肉のぶつかり合い、肌と肌の触れ合い。ぬくもりを交わすことでしっかりと確かめる、あるいはぬくもりでしか確かめる術を知らない。それもひとつの愛のかたちなのかもしれない、かけひきではなく、ただ求めるだけの身体の欲望。ある意味、純粋と言えるのかもしれない。本当の「想い」なのかどうかは別として。
好意的に読もうと、徒に言葉を弄び、連ねてみれば、本書を高く評価することは可能だろう。しかし正直に言えば予想どおり途方に暮れた。以前、村山由佳の描いた、この年代の主人公の性愛を描いた作品を読んだときと同じようにどうしたらよいのだろうという思い。本書はぼくの好みではない。
「十七歳スイッチ」「あなたを沈める海」「指で習う」「春と光と君に届く」「スイカの秘密を知ってるメロン」「避行」「結晶」の七編の短編を収める。
例えば、東京で小説家になり、しかし成功したとは言えず、まだ自分に自信を持てない照。郷里で何をするわけでなく、七年間もの間、年に一度だけ帰ってくる照とのセックスを待つ遥。そのふたりを描く「あなたを沈める海」「避行」のふたつの作品。いまだ高校生のころから変われず、何ものにも成りきれないふたりが、セックスという一時的な快楽を貪ること、セックスを通し他者と関わることで、何者でもない自己を認識することを描いたという意味で読めた作品。ふたつの短編を、正、続と簡単にまとめることなく、ただそこにあるものを切り取っただけというのも、この作品の場合は評価できる。
あるいは最後の作品「結晶」。上京して出会う同郷の才女と、モデル崩れの仕事をする少年。この作品は豊島ミホの他の作品の構図にも繋がるのだが、郷里を捨てて都会で生きる女と、夢を持ち煌いていたはずの少年が、何者でもないちっぽけな自分に気づき、郷里に戻っていく物語。その男女の対比は、この作家のもっとも得意とする構図かもしれない。
これらの作品は、なんとか読める作品。
しかし、ただ快楽をのみ求めるような「十七歳スイッチ」。その年代特有の、と言ってしまえばそれまでなのだろうが、なんとも即物的に思えた。
あるいは大阪の大学で出会った呉服問屋の御曹司との、ただ快楽を重ねた生活から郷里に戻った三十女の切ない空疎な生活を描く「指で習う」。この作品はただ彼女の生活を切り取り、放置しただけのような印象を抱いた。敢えて主人公の、なぁんにもないことを描いた、といえば聞こえはよいが・・。
「春と光と君に届く」もこの作家が、時折、描くモチーフのひとつ。10歳年上のただマジメに仕事をするだけの実直な主人公と、彼と結婚した19歳の晴ちゃんの物語。セックスを交わすことなくただ抱きしめるだけの晴ちゃんとの幸せな生活。そんなとき主人公を悲劇が襲う・・。ある意味、ほのぼのとした温かさを持ち、セックスだけの他の作品とは方向が少し違うのかもしれない。しかしあともうひとつ、何かが欲しい。
「スイカの秘密を知ってるメロン」マーが結婚していても、大好きなマーとのセックスを続ける澄香。お見合いで知り合った男性との妊娠をきっかけに、マーとの関係に終止符を打つ。この作品については何もいえない。こうした関係が田舎にはあふれているのか、と思うしかない。あっけらかんとした性。そして最後に収まる小さい家。何かを読み取ることも可能なのだろうが、ぼくにはわからない。
本書は2002年「青空チェリー」で「女による女のための『R-18』文学賞(読者賞)」を受賞してデビューした豊島ミホの、そういう意味で原点に立ち返ったエロティック小説なのかもしれない。しかし豊島ミホはこのジャンルに拘るよりもっと素敵な小説を書いているのだから、敢えて原点に戻る必要はない。
・こころとからだ
『会っている数日のあいだ、わたしたちはセックスしかしない。
おぼえたての高校生のままみたいに―――』
どきっとする一文そのまま
からだのつながりを主軸にした恋愛小説集です。
「女による女のためのR‐18文学賞」でデビューした作者の
原点回帰ともいえるような短編集といえるかもしれません。
豊島さんらしく、舞台はすべて田舎。
ふつーの男子高校生のひと夏の経験であったり
上京した元彼が帰ってくる三日間であったり
なにか、振り返れば人生のひとつの区切りとなる「そのとき」が舞台になっている。
どのお話も恋人とはいえない、約束事のない二人で
求め合う二人の行為は、刹那的。
けれどその描写はなぜか
官能的というよりも、せつなさが胸を打つ。
けして恋とか愛とかいうものを真剣に考えているわけではないのに
ひどく純粋な恋心がそこに見え隠れしているのだ。
あまりロコツなのはちょっと…という人でも
官能小説とかエロティックとかいう売り文句に一歩引かないで
手にとって読んでみてもらいたいのです。
こんな切なさを表現できる作家は他にそうそういない。
豊島ミホさん、しばらく休筆されるそうなのですが…。
ゆっくり充電して、近い未来にまた書き始めてほしい!
期待しています。
・しっかり休まれたら…
豊島さんは、「女による女のための『R-18』文学賞(読者賞)」受賞者。
この作品も、ややR‐18っぽい表現が多々、出てきます。
おまたパカパカの女の子が嫌いなので、最初の「十七歳スイッチ」で、う〜ん、と思ったのですが、感情表現などに面白いものを感じ読み進めました。
「あなたを沈める海」
遥のような生き方、私は選ばないけれど、照には言わない遥の気持ちに胸がキュっとなりました。
年に一度、たった数日だけ一緒に時を過ごす照と遥。
「飛行」は、照から語られた物語。
こちらが描かれることにより、物語に深みが出たように感じました。
他の作品も、地方出身者が主人公のものが多く、方言がとても効果的でした。
只今、休筆宣言中の豊島さん。
デビューが早かったから疲れたのでしょうか。
ゆっくり休まれてから、再びペンを取っていただきたいと思います。
・鋭くて冷たい言葉から生まれるラブストーリー
7つの短編は男と女がからむ甘ったるいものなのに、豊島ミホにかかると鋭くて冷たい言葉が鎧となって、なんとも切ないラブストーリーになっている。
将来を漠然と考えながらも、今の恋愛を貪欲に食べる主人公たちの姿は生のまぎれもない姿になる。その艶めかしさはR−18文学賞デビューが伺える特徴かもしれない。
欲望だけの作品と重松清の『なぎさの媚薬―敦夫の青春|研介の青春』シリーズなのと考えてると全く異なります。欲望を主体にしていそうに見せながら、恋心がきちんと存在する作品だから。
自分の人生を相手に委ねてしまえる幼さが残るからこそ、関係の中心に欲望が見えるけれども、実は相手の存在に心を重ねている恋がある。その辺りの描きかたが絶妙な豊島ミホ、まだまだ期待の作家です。
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