・彼の最高傑作?
源実朝からはじまり、マルコポーロで終わる。幻想的な物語。
山本周五郎賞を受賞した作品だが、そんなことを抜きにしても抜群に面白い。
前三作に比べると、描写も大分おとなしいが、その分、心にしみる文章となっている。
今年読んだ本の中では、もしかしてベスト1かもしれない。なんで今まで読まなかったんだろう。
・あまりの美しさに落涙するを禁じ得ず
本書は、澁澤龍彦の『高丘親王航海記』に対する盛大なオマージュなのですが、『高丘親王〜』をころりと乾いた真白い真珠とすると、本書はさながらとろりと蕩けるの蜜の如し。
前半では、鎌倉最後の将軍、源実朝に近衛として仕えていた語り手が、主である実朝とそれを透かして見た安徳天皇について、和歌を交えてやわらかく語っています。
全体的にほの暗く、しっとりとした語り口から見える実朝の生涯は、壮絶にして静謐。
要所要所に挟まれる実朝の詠歌が、物語と絡み合ってなんともいえぬ美しさをかもし出しています。
後半は、大元帝国の巡遣使であるマルコ・ポーロが見た、南宋最後の幼帝、趙(ちょうへい)と、はるかな海へと流れついた安徳天皇の鎮魂にいたるまでが、絢爛たる文章で綴られています。
夢の中で睦まじく戯れる二人の幼帝や、偉大なる帝国の覇者クビライ・カーン、そして見聞役のマルコ・ポーロと、随行する鄭文海。
様々な人物が色鮮やかに、生き生きと描き出されています。
そしてなにより、最後に出てくるジパングの描写は圧巻。
歴史の中に、途方もない幻想を描いた著者の想像力もさることながら、随所にちりばめられた玉石、赤い水晶、少年、水の国、うつろ舟、鳥、そして蜜といったイメージが『高丘親王〜』をはじめとする澁澤の世界を髣髴とさせ、最後まで引き込まれるように読めました。
とてもとても面白かった。
ぜひとも、蜜を舌に含むが如く、ゆっくりと味わうべし。
・澁澤龍彦を思わせる秀作
著者自身が参考文献にあげている、澁澤龍彦『高丘親王航海記』を思わせる、幻想的な時代小説です。『高丘親王航海記』ほどあくは強くないけれど。実朝、鴨長明、後鳥羽上皇、安徳天皇、クビライ・カーン、マルコ・ポーロ、そしてあの人も登場します。
『平家物語』『吾妻鑑』『明月記』などを縦横に使い、迫力ある筆致です。
・汎アジア伝奇
宇月原先生の山本賞受賞作。
前半の語りは、古典が苦手な私は読むのに閉口したが、
苦労して読むだけの仕掛けがちゃんと用意してありました。
日本史にとどまらない、著者の世界観の広さに驚きました。
さすがです。
・壮大に広がるファンタジーの世界
ファンタジーとも知らずに読み始めたのですが、はじめは物語の世界に入っていくのに少し時間がかかりました。特に第一部は源実朝を中心に吾妻鏡を織り交ぜながら語られるのですが、古文のかもし出す重々しさや鎌倉時代の鎌倉という質実剛健で妙に現実的なイメージと、幻想的な描写がどうしてもしっくり来ず、なかなかファンタジーの世界に浸れませんでした。それに比べるとマルコ・ポーロが語り部となる第二部は、海の向こうが舞台のせいか、ファンタジーとして私にとってはなじみやすく、一気に読んでしまいました。
タイトルをからは、生き延びた安徳天皇が冒険の旅をするような物語を想像していたのですが、安徳天皇が直接の主人公ではなく、安徳天皇の生きた情念が、鎌倉時代の日本、そしてクビライ・カーンの大元帝国をも巻き込む歴史を動かしていた、という話。その壮大なアイデアに度肝を抜かれる一方、人物や情景の描写が細やかで美しく、壮絶な戦闘シーンでさえも夢の一場面のようになんだかうっとりと読んでしまいます。
日頃ファンタジーを読みつけないせいか、最後のクライマックス近く、夢とうつつの境がなくなってくる辺りになると、夢幻の描写に息苦しくなってしまいました。