・できるだけ長く“密室”のままで
倒叙形式ではありながら、犯人の動機は伏せられたたまま、物語が進行します。
犯行現場となった部屋は密室にされ、犯人以外の関係者は、被害者の生死も確認できず、
また、確認しようにも、歴史的価値のあるドアとセキュリティシステムが施された窓のため、
それらを破壊し、進入することも躊躇われるという状況設定がなされています。
そして本作のキモは、なぜか犯人が密室を維持し続け、死体の
発見を遅延させようと、関係者を誘導しているところにあります。
普通の密室ミステリなら、密室を破る場面が序盤に置かれますが、おそらく
本作ではそれを転倒させることによって異化効果を図ったのだと思われます。
そのために、本作の特異で独善的な動機が案出されたのでしょう。
犯人の些細なミスを見逃さず、それに基づいて真相を導き出す探偵役の推理は
鮮やかですが、本作の場合、他殺と想定した時点で、犯人をほぼ特定できる、
というのが残念(まあ、犯人当てではないので仕方ないですが)。
・軽く読める本格ミステリー
犯人が主人公の倒叙ミステリー。
冒頭がいきなり犯行シーンで、しかしその動機だけが分からないまま、
そこでいったんシャッターが下ろされて第一章が幕を開ける―という、
あの人気ドラマ「古畑任三郎」のような構成。
犯人と相対する「探偵役」には彼の後輩のとてつもなく頭が切れる女性が登場し、
他の登場人物の誰もが気づかない「密室殺人の謎」に挑んでゆく。
絶対に悟られたくない犯人と真実に徐々に近づいてゆく彼女の攻防は、
なかなかの神経戦で面白い・・・はずなのだが・・・、
本来なら緊迫の場面なのに、何かが足りないと言うか。
ドキドキしない、煽られない、感情移入出来ない、残念ながらどうにも最後まで傍観者にしかなれなかった。
犯人も後輩の彼女も妙に「出来すぎ」で、人間味が感じられないのが大きな原因だったと思う。
そういう要素を抜きにしてただミステリーを楽しむという意味ではそこそこに面白い作品なのだろうが。
もっとドロドロした、人間の「悪」の部分が出た作品が好きな自分には、なんだかちょっと味気なく感じてしまった。
・期待を裏切らない読みやすさです
まさにコロンボのようですが、いきなり殺人シーンから始まり、そのトリックがわかってしまってからスタートします。
その後犯人周辺の状況が明かされていき、犯人対探偵役の構図がゾクゾクする臨場感で語られていきます。
手に汗握るようなストーリーではありませんが、その対決はなかなか奥が深く、小説としては手頃の長さの心理戦で非常に読み応えがあります。
結末の恐ろしさ(女性の?)もゾクっとするものがあり、普通のミステリーにはない面白さ。
ちょっと動機として弱いかなあとも思いますが、犯人の頭の良さと潔癖症を考えると、それもいいかなあと納得。
手ごろにミステリーを楽しみたい方にはオススメです。
・古畑任三郎が好きな方にお勧めです
この本を選んだのは、近所の本屋さんでお勧めしていたためです。
石持さんと作者の本は初めてよんだのですが、殺人犯である伏見の心の動きが分かりやすく表現されていました。
盛り上がり部分が多彩とかいうよりも、気づいたらのめりこんで読んでいたという感じでしょうか。
「古畑任三郎」のように初めに犯人がわかっているので、ミステリーを徐々に紐解くストーリーが好きと言う人にはお勧めできません。
この小説に出てくる女版の古畑任三郎こと優佳(ゆか)が、冷静に伏見を追い詰めるところは、現実の女性にいたら、絶対に頭が上がらないだろうなぁという感じで読んでいました(笑)
また、読者の気を持たせた状態で物語が終わってしまうので、気になって仕方ないです(笑)
ワタシ的には、犯人の心理描写にドキドキ感を味わえたので、面白く読めましたよ。
・鋭い推理に心理的に追い詰められていく描写は秀逸
著者は九州大学理学部卒だそうで、なるほど理系らしい非常に理論的な犯罪計画と推理の応酬が展開され、最後まで読者を捉えて離さない。
本書の面白い所は、事故死を装った密室を作り上げた主人公・伏見と事件に疑問を抱く優佳との息詰まる頭脳戦であり、
若く美しい優佳の鋭い推理に心理的に追い詰められていく描写はなかなか秀逸。
また、伏見と優佳はかつて恋愛関係に発展しそうになったエピソードもあり、二人の対決に恋愛の駆け引きも絡み、
最後にはとんでもない取り引きが交わされるのだが、それまで石持浅海という作家は女性だと思っていたので、もしもそうならちょっと意外に感じてしまった。
また、犯行の動機については賛否両論あると思う。
ちょっと理解に苦しむ動機であり、しかも利害が絡んでいないため優佳の推理が動機について触れる所になると
論理が飛躍してしまい、推理に無理がある様に感じてしまった。
登場人物のメンバーは大学の研究員や翻訳家だったりするので、
もう少し知的でペダンティックな会話があったらさらに面白かったのではないだろうか?(これは好みの問題ですが)