・読者を引き込む秀逸の取材
いま介護の現場で何が起きているのか。
離職率の高さから介護士集めに苦労する経営者、
賃金の安さに耐え切れず、已む無く現場を去る労働者達、
双方の生の声を聞くと、背景にある問題の深刻さがよく解り、
将来への不安と問題解決へのあせりを感じずにはいられない。
近い将来、介護士不足により大量の介護難民が世に溢れるのは
火を見るよりも明らかで、政府による早急な制度改革が、
今最優先で求められている。
本書には、当事者の生の声が赤裸々に書かれ、双方均等に焦点を当てた
数々の現場取材は、読み手に問題の本質と深刻さをストレートに伝えている。
外国人介護士は、今後の担い手になりえるのか?
また、諸外国の現状から、我国の制度改革をいかに進めるべきか等、
学識者の意見も要所に織り込まれて、本書1冊読めば、この問題の考察には
十分と思わせるほど、内容濃く巧みな編集がなされている。
理解が深まり、読み手を引き込み学ばせる、素晴らしい内容です。
・日本の殆どの人は、安心して老いる事ができず、安らかに死ねない。
日本の政策は、施行当初から様々な問題が噴出すると予想できていながら出発し、走りながら考えるとの姿勢で、なし崩し的に官僚の思うように操られていく例が多々ある。
介護もその一つ、いや走ることすら止めてしまっている点で、更に悪いと言えよう。
行政にお願いして措置してもらう時代から、介護保険掛け金を支払い、自分の意思で利用する、自己選択の時代に入るはずだったが、実際は当初言われた金持ちの介護認定が重度の人のためのものどころか、自費で介護人を雇えない人はさっさと死ねと言わんばかりの、棄民制度となってしまっているのが、本書の施設、介護者への取材で明らかにされる。
キリスト教のような慈悲の宗教基盤がないにも関わらず、ドイツの家族介護型の制度を取り入れ、世間には社会介護型の北欧型介護が受けられるとの認識を持たせているにも拘らず、税方式でなく利用者負担の自己責任方式では、早晩破綻することは目に見えていた。
その根本の論議をおざなりにして、3年毎の小手先だけの改悪は続く。
今、平均で7〜8ヶ月間寝たきりになるという。
介護に無関心でいられる人は皆無であり、自分が安心して死んでいけるように、介護士の生活、施設の利益も考えたシステムの再考を国民的問題として行わねば、本書収録のいくつかの善良的な介護施設すらも育たず、政府の望む「子沢山・若死に社会」の犠牲となるしかない。
45分の番組を基にして、追加取材も加えた本書は、番組を単に起こした本とは一線を画す。
このような番組で補えなかった取材を含めた本が、今後も出てくるよう期待したい。
・現場と、業界全体と、世界の視点から
介護保険制度開始年度にこの業界に入り、介護福祉士も取得し、現場でのケアについての問題点はずいぶんと分かるようになったし。低賃金ゆえの人材の流出も体感していたが、どんな切り口で書かれているのか気になって読んだ。
第1章 「介護する人」が誰もいなくなる!
現場の実態を把握することができるでしょう。
第2章 「恍惚の人」の時代に戻ってもよいのか?
日本での介護をめぐる近年の歴史について触れていて、自分自身、福祉の歴史のおさらいをすると同時に、業界全体の流れについても知ることができて、勉強になった。ただ、制度やサービス内容のことばかりで、ちょっと小難しいような、退屈気味な印象が残る。
第3章 なぜ、制度がうまく回らないのか?
介護保険制度そのものの問題や、世界から見た日本の介護問題が理解できるでしょう。世界的規模の視点を入れると、日本の現状に危機感を覚える。
第4章 規格どおりの介護がよい介護とは限らない
『人が人に時間をかけることで、見えてくるものがある』でのコメントに、とても勇気づけられた。目に見える形での報酬はないかもしれないが、お金には換えられない経験や価値観をもつことができるのが、この仕事の醍醐味かもしれない。
・自分だけは大丈夫と本当に言えるのか
高齢者の単身世帯が増加していくのは明らかなのに、
世間から聞こえてくるのは「ああはなりたくないものだ」という高齢者自身による介護を要する人への差別だ。
そんな社会で介護職に対する待遇は「やりがい」という情緒的な側面だけを強調する。
介護の現場の声を問題点を踏まえてレポートしてるが、そこに切実な心を感じるのは、
現在介護職をしている人だけの問題ではない日本全体の問題としての危機感と怒りを取材班が見て感じたからに思う。
加齢も障害も自分には関係ないと他人事にしたり、現実から眼を逸らさず、考えなくてはならない状況まで日本は来ているのだと考えさせられた。
・自分たちのこと、と考えるべき問題なのですが
介護の実情が知りたくて読んでみました。
以前2ちゃんねるあたりで、「結婚しようとして先方の両親に挨拶に行ったが、年収200万と言ったら鼻で笑われた」という内容のものがありました。
それに対するコメントの多くは20何歳で年収200万なんてありえないだろう、というものが多かったのです。
ですが、本書によれば、介護にかかわる人の4割以上が月収20万円以下とのこと。そして男性が結婚を機に退職する、ということが日常茶飯だといいます。「こんな給料では子供も作れない」と。
ただし、これまた本書によれば、給料が安い、というのは直接の原因ではあるものの、それでも介護の仕事にやりがいを感じている人は多いのです。その情熱を持っても介護職の継続を断念させるものは何か。
それは介護職の展望のなさです。何をやっても賃金は同じで、しかも毎年削り取られていく。創意工夫をして施設が黒字を出しても、黒字を出せば「余力がある」ということで翌年からはさらに予算が削られる。介護報酬以外からの収入を禁じられているため、そうなると人件費を削るしか他に道がない、という悪循環です。
これでは自分たちの仕事が社会から評価されている、という意識というか、誇りなど持ちようがありません。
「介護を社会化する」と宣言し介護保険をスタートさせたのは良いことです。特定の個人だけが介護の苦労を負担する、ということは大きな間違いだからです。ですが、そのコンセプトを実現するための制度設計がまるでダメということです。
書中にこんなセリフがあります。
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自分たちの老後を担う人たちとその仕事を私たち自身が貶めている。それは「自分だけは年もとらないし、絶対に障害を持つこともない」と言うのと同じだ。
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番組製作者の為政者に対する怒りが、本書のタイトル「愛なき国」に表れています。「愛がない」とは誰に向けられた言葉かといえば為政者に対してだけではありません。むしろそれは、この問題を誰もわがことと考えられない国民に向けられているのです。
何年か後には、介護される側なのかする側なのかの別はあるにせよ、間違いなく自身が関係することです。相当しっかりとこの問題はウォッチして、かつ積極的にかかわっていく必要がありそうです。
それでも救いは、介護殺人、虐待などそれまでは頻発していたにも関わらず、めったに報道されることはなかったのに、「介護の社会化」のおかげでそれらが明らかにされることも多くなり、問題が共有される土壌ができたことだと述べる関係者も多いそうです。