・この「中」の世界で、止めて欲しい
この世界の片隅に 上 (アクションコミックス)のレビューでも書いたことだけど、もうここで止めて欲しいと願います。歴史は止められない。歴史的事実を変える事は出来ない。それはわかっていながら、この素晴らしい市井の名もない人々の生活を、どうかこのまま続けさせてあげて下さい、と願います。
なんの大きな出来こともなく。普通の人が、普通に恋し、普通に夫婦になり、あるいは子どもたちが(戦時下と言う環境でも)子どもたちらしく、悩んだり、喜んだり。。。
そう、普通に生きることの素晴らしさがひしと伝わってくる。
母はこうして生きていたのだろう。叔父や叔母もこうして生きていたのだろう。父は満州に行っていたなぁ、とか思いを馳せます。
これほど控えめで、しかし力強い反戦の、平和の物語はないでしょう。
声高にスローガンを叫ぶばかりが能ではない。
素晴らしい作品に出会えました。
でも、「下」を読みにかかる勇気がないなぁ。
・子ども達にも手渡したい!
戦争の体験談は、その方の伝えたい思いとエネルギーの大きさに、
(戦争を体験していない私は、)悲しいかな腰が引けてしまう。
(同世代の方が検証して描かれたからなのか、物語として)
純粋に戦時下に生きる主人公に気持ちを添わせて読むことができました。
枝葉をそぎ落としつつ・それでいて丁寧に描かれた市井の人々の日常と
けなげに明るく生きる主人公に涙が出ました。
子ども達にもさりげなく差し出したい物語です。
・誠実な追体験
平凡社のホームページで、こうの氏が連載しているエッセイを見つけたが、最新号には本人が戦争作品を描くときに感じたことが書かれていた。直接体験しなかった重大な事実に個人としてどう向き合うかという点について、この上ない誠実さが表れていた。
こうの氏は資料や他人から丹念に事実を集め、戦時下の生活を追体験していった。その結果がこの漫画である。漫画ならではの仕掛けも随所に隠れているから、読み返すたびに楽しめる(中巻の冒頭の径子さんの着物が「小姑」柄だということに最近やっと気付いた)。しかしそれ以上に、作者の誠実な人柄に触れることができるのがうれしい。
・上中下の中巻
云わずと知れた『夕凪の街 桜の国』の作者による、
太平洋戦争を時代背景としたマンガ。
現代の女性の視点から過去の戦争を振り返る
『夕凪の街 桜の国』とは違い、本作の時代背景は
太平洋戦争時を中心に置かれている。そのため、
他家に嫁入りしたエキセントリックな女性を主人公に据え、
読者が感情移入し易い構造を採っている。
作者は大上段に反戦を振りかざすことなく、
日常の些細な描写を、丁寧に行ったであろう
時代考証から積み重ねてゆくことにより
強いメッセージ性を発することに成功している。
また、一見荒い絵柄に紛れてはいるものの、
細かな伏線の張り方が秀逸であり、
物語後半になるに従い、その伏線が
ボディブローのようにじわじわと効いてくる。
本作は上中下の中巻。時代はいよいよ終戦の年、
昭和20年に入り、軍港呉は黒い雲に覆われ始める。
その中で、過去の小さな出逢いに、
それぞれコトリと心動かされる主人公夫婦。
その静かな感情のざわめきと、
来るべき時代の震えのようなものが
シンクロする構成は見事と云う他無い。
・健気なすずの姿に胸うたれる
「この世界の片隅に 上 (1) (アクションコミックス)」に続く第2巻中編。
昭和19年7月から20年4月の広島に暮らす すずたちの生活が描かれます。
婚家でつつましく健気に生きるすずは、ふとしたきっかけで遊郭の女リンと知り合うことになります。そのリンとすずは出逢う前から縁浅からぬつながりがあったことが見えてきます。
そしてまた、幼馴染で今は海軍に身を置く水原哲が久しぶりに彼女のもとへやってきます。哲とすずとの間にも複雑な感情の往来が生まれます。
“あの日”までわずか4ヶ月というところまでやってきた すずたち登場人物の生活はこんな風にわずかに波を立てることになります。その静かな波立ちの描き方が実に見事です。
水原哲がすずを評してこう語るくだりが心に残りました。
「あーあー普通じゃのう。当たり前の事で怒って当たり前の事で謝りよる。
すず お前はほんまに普通の人じゃ」
「この世界の片隅に」静かに当たり前に生きるすずたち。夫婦のちょっとしたすれ違いや、家族の仲たがい、そうした当たり前であることがなにものにもかえがたいシアワセであるあの時代の空気とにおいをこの作品は現実感を伴ってみせてくれます。
さて、第3巻・最終編の出版は来年初めのころでしょうか。
楽しみでもあり、おそれてもいる自分が今ここにいます。