・日本企業の暗い未来を暗示
本書は著者の博士論文を簡単にまとめたもので、ムーアの法則(18ヶ月で半導体の集積密度
が2倍になる)からどんな未来像が見えるかを予想したものだ。
内容を簡単にまとめると、
1.ムーアの法則によって情報インフラがコモディティ化(陳腐化)する。
PCが激安に。OSの重要性の低下等。記憶メディアは半導体の進化が最も速いのでFlash
メモリがHDDやDVD、BDを駆逐するだろう。
2.企業は個々の製品やサービスにこだわるより、サービスのボトルネックを解消する
ビジネスを目指すようになる。
3.ビジネスは垂直統合型から水平分業型へ変化している。
製品のモジュール化により日本企業が得意な、すり合わせ技術が無効化する。日本の
電機メーカーが悲惨な状況に。また将来自動車産業も同様の状況になる。
4.非コモディティ化を避ける方法は?ボトルネックは著作権である 等々
本書は説得力のある議論で、IT企業を中心としたビジネスの未来を予測する。著者によると
日本の多くの企業が古いビジネスの方法にしがみついているが、いずれ破滅する、暗い
未来が見えてくる。
・制御不能の状況下における秩序
元NHK職員で現在は教授であり有名ブロガーが書くITの経済
内容はムーアの法則、つまり毎年2倍程度の進化を遂げてゆく世界について
まずは筆者なりの解釈を展開しています。その上でムーアの法則により
情報インフラはコモディティ化してしまい、表題でもあるとおり
情報は過剰な資源になることを示しています。
その上で、過剰世界での問題点、つまりボトルネックが問題になると
筆者は指摘しています、ボトルネックの例として、人間であり
放送の世界では電波であり、そして情報という意味では
著作権がボトルネックである例を示しています。
最後に、そのような過剰な世界でどう対応するかという点において
著者の結論は、国内という狭い「ボトルネック」で保護するのは
時代錯誤で、グローバル化が前提のイノベーションを起こすこととしています。
元々がNHKの人らしく、放送自由化の電波の例など出てきて、
なかなか面白い本だなぁと思いました。
かといって、さすがにすべてをムーアの法則で丸めてしまうのは
無理があり、読み物としては面白いのですが、
知見や、だから何に役立つのかについては、少し薄い気がします。
それにしてもムーアの法則で、放送から携帯電話まで述べているのは
なかなか守備範囲が広いなぁと思いました。
・「ロードマップの不思議」ではなかった
なんでロードマップは、当初無理目に見えても実現されていくのだろう?という疑問から読んだのですが、そういうことに触れた本ではなかったのですね。
それはともかく、ムーアの法則に沿った技術の進歩が半導体製造の外側に及ぼしている影響の広範さに驚きました。著者に改めて指摘されるまで全く考えが至っておりませんでした。
本書中の一部についてを挙げれば、現在のプライバシーや著作権の扱いに対する過激に見える意見にも同意ですが、CELLを失敗としているところは結論を急ぎすぎていると思います。著者も指摘している通り、ハードに比しソフト開発の進歩は非常に遅く、CELL自身が立ち上がるにはまだ早すぎるのかもしれませんが、グリッドコンピューティングが立ち上がるときにCELLが生きながらえていたら大化けするかもしれません。
面白かったのですが、「ムーアの法則」って法則ではなく予測なのに、なぜロードマップ化されるとそれを上回る速度で技術が進歩するのか、を知りたかった勘違いな私の満たされない思いをひとつ減点に込めます。
・日本の情報産業は臨機応変な対応をすべき
結論を先に書くとITの進化によって何が本命かわからない場合、
いろんなものに投資してステージ毎に成果を見てうまくいっていない
プロジェクトを捨て、結果としてうまくいったものを成功と見なすしかない
という著者の主旨です。
何故ならば情報インフラはコモディティ化するからです。
つまりボトルネックだった部分が代替品と代替可能になるから。
本書ではこのボトルネックにマイクロソフトのOSからサーバー、日本の
電波周波数の割り当て方式など実に様々な事例を挙げて説明しています。
ちょっとしたITの歴史を振り返るのに良いでしょう。
そして著者としては官僚主導、政府と民間企業とタッグを組んでの
ITインフラ整備を強く批判しています。
理由は
1.臨機応変な対応が取れない
2.一度法制化するとそこから新たな情報インフラのコモディティ化が
進むと法制化した案をさらに軌道修正している内に諸外国のIT企業に
先を越される
という考え方です。
日本の家電企業は素晴らしい技術を持ちながら、法律の規制に自由を奪われて、
さらにノキアのような1つに特化した企業にならずに総合的企業のまま
停滞していて、世界の進歩に取り残されているという主旨を述べています。
・そんなにすごい内容ですか?
基本的に独自の新しい研究成果や知見はない。近時、経営学の分野で進んでいる議論の受け売りでしかない。あとは著者独自のイデオロギーが、ルサンチマンとともに「はき出されている」だけ。議論の中に経済厚生への目配りがないので、目下の日本の経済状況の議論については、全く役立たず。