・ナッジにはなってるだろう
邦訳文中に首をかしげたくなる部分が多いことは、否定しない。少なくともタームレベルで誤訳と思われる単語は、素人のレビュアーからもいくつかある。
ただ、
1. 一般向けの入門書であること
2. にもかかわらず原著の高名さを知っている人は知っていること
3. 邦訳文に疑問を感じる人は既に原著で本書を読む必要を感じていること
4. 原著を読む必要を感じる人も訳書で訳者想定程度の理解ができた人も、自分の必要レベルを認識した・させられたという意味で「ナッジ」されていることは否定できないこと
などを考えれば、十分費用対効果は見合うかと。
・なるほどこの手法か!
「現状維持バイアスは簡単に利用できる。何年も前のことだが、サンスティーンのもとに好きな雑誌を五冊選んで三カ月無料で購読できるという太っ腹な手紙がアメリカン・エキスプレスから送られてきた。雑誌を読むことはめったにないとしても、無料購読というのはお得なように思える。そこでサンスティーンは喜々として無料購読する雑誌を選んだ。だが、そこには落とし穴があった。購読をキャンセルする手続きをとらないと雑誌は送られ続け、正規の購読料を支払わなければならなくなるのだ。サンスティーンは十年間にわたってほとんど読んだことのない雑誌を購読し続けている。」p62
なるほど、現状維持バイアスというのですか。
この手法はよく使われていますよね。
売る方は行動経済学をちゃんと学習して、「フリー」のサービスをしているわけですね。
この本を読むと、売り手がどういった方法で商品を買わせようとしているのかというカラクリがわかりそうです。
じゃ、そのカラクリを使って商売をすればいいじゃないか、なんて思ったりします。
神田さんなんかはこーいう本をもう何年も前に原書でお読みになってお金儲けのヒントを得ていらっしゃたんでしょう。
翻訳される前に読める英語力が必要だと痛感いたしました。
・入門者にはよい1冊
はじめて「行動経済学」を学びたい人にはよい1冊です。
他のレビューにもあるように、一部読みにくい日本語もありますが、
本の内容自体はわかりやすくて、有効な選択肢を提示しつつ
お客さんを誘導する「ナッジ」なるものの考え方を学ぶことができると思います。
実例(多くは作り話)もアメリカ的ではありますが、参考になります。
ただ、あくまでも入門的な内容です。
・やはり流行りの分野です
「経済は感情で動く」とか
「スタバではグランデを買え!」
よりは、日本語のタイトル通り「実践 行動経済学」してます。
前述の2冊が、「ほぉ」「へぇ」だと
こちらは、もう少し「実践」です。
そういう意味では良かったかな?と。
個人的には、
(質問者側にとって)適切な選択を促すために、してほしい行動を質問する事により、その行動への動機付けを強化できる
例:選挙の前日に投票するつもりかどうか質問すると、その人が投票に行く確立を25%も高められる
いわゆる「チャネル要素」が使えるネタとなりました。
・目新しい本
確かに翻訳は微妙かもしれない。
だけど、訳が微妙だという理由でこの本を読まないのはもったいないと思う。
自分は経済学の啓もう書はかなり読んでいるが、
十二分に目新しく、かつ有用な本であると思っている。
内容を個人的解釈で簡単に言えば
(1)(経済学で仮定される)人間の意思決定の合理性はどのような時にどの程度成り立たないか
(2)その成り立たないことをどのようにコントロールするか。あるいはコントロールできるか。
(3)社会システムは合理性を仮定したうえで設計するべきか否かという政策論
本書でもよく例に使われる保険の意思決定を引用して(1)〜(3)を説明するすると
(1)「こんな複雑多様な保険の中から、自分に最も適した保険を選ぶと仮定されるが、
実際にはデフォルトの選択肢を選ぶ等の意思決定がなされているよ」
(2)「上記のような意思決定をよりよいものにするために、(a)インセンティブを理解する、
(b)マッピングを理解する、(c)デフォルト、(d)略(e)略(f)略という点に気を払えばいいと思うよ」
(3)「しかし、例えばデフォルトの選択肢を特定の保険にすることいいことなのか?そのことは人間が
合理的であれば不要じゃないのか?その選択肢はどうやって決定するのか(よい選択肢とは)?
さすがに異常な量の保険から『さあ選んでください!』とやるのはまずいかもしれないが、
それならどの程度意思決定の手助けをすべきなのか?」
という感じです。
ナッジという概念は特に(2)や(3)における「意思決定における手助け」と考えればいいと思う、が、
どのようなナッジが有用で、かつ、ナッジはどの程度まで与えるべきなのだろうか?というのが
プロローグからエピローグまでを貫くテーマになっています。
著者は
(1)全ての意思決定を意思決定者の自由に任せて、何かあったらその人の責任にする(リバタリアン)
(2)よい意思決定というものをエラい人が何らかの方法で考えて、それを押しつけてあげる。(パターナリズム)
の中道として、ナッジを程よくきかせたシステムがいいんじゃないかと主張してます。
理論的なことをやりたいなら、An introduction to behavioral economics / Nick Wilkinsonとかいいかも。