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『夏草冬涛』、『北の海』と三部作をなす井上靖の自伝的作品。『あすなろ物語』の第一章を敷衍、長編化したような内容。

読んでいると、作中の様々な場面や描写に喚起されて自分の少年時代を思い出した。小学校、友達、勉強、先生、家族、親戚、近所の大人たち……などなど。

中学受験のために主人公が奮起するところでは、やはり「克己」という言葉が使われた。『あすなろ物語』にも出てきたこの言葉は、きっと在りし日の井上少年を支えた言葉なのだろう。犬養のモデルに相当する人物が、井上少年に教えた言葉だろうか。
何年か前の深夜放送で映画の方を見ていたので、読み進めるうちその映像が蘇ってきた。趙行徳は佐藤浩市に、 朱王礼は西田敏行に、自然と脳内変換された。読み終わって、映画の方もまた見たくなった。

『猟銃』、『闘牛』などの短篇に比べ、文体は洒脱で読みやすい。
芥川賞受賞作『闘牛』を含む三篇を所収する井上靖の初期短篇集。どの作品にも通底しているのは「孤独」で、それもどちらかというと、自ら選び取るところの孤独、静謐で冴え切った内的世界を生きる、少し離人症気味な人間の孤独である。それが、これまた美しいのだがどこか冷たい感じの日本語で綴られていて、巧みな比喩表現がその印象をもたらしている。

『比良のシャクナゲ』……これが一番面白かった。生涯を何かに捧げる人、そしてとうとう死ぬまでそれに手が届かず、報われず、それでもそれを追いかけ続けて死んでいく人、というのは井上靖の作品に結構出てくる気がする。読んでいて『天平の甍』の業行(ひたすら経文を書写していた人)を思い出した。
ひたすら関西弁の独白によって進行する小説。「~してん」、「~あれへん」、「~かめへん」などを文字で読むと、なんか背筋がむずむずっときて、同時にイラッとくる。そのせいで何度か放り投げようかと思った。我侭放題な登場人物の図々しさもさることながら、文字で書かれた関西弁に対する違和感みたいなものが最後までつきまとった。ううむ、関西圏に住んでるんだけどなあ。聞くと読むとは大違い。不思議。
もやもや。
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